ホーム>知的財産管理技能検定とは?>エジソンズ・ゲームを10倍楽しむ方法

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    まず,誰向けの映画か,という点から始めよう。当然,発明王エジソンの話であるから,特許が関係ない訳がない!したがって,知的財産部にいる人はもちろん,発明をするのが日々の仕事といえる企業(特にメーカー)の研究者,エンジニアなど仕事で「特許」に少しでも関わる人には,よだれが出まくるたまらない映画である。
    他方,本映画では常に「新規事業」をめぐって話が展開するため,スタートアップのベンチャー経営者や企業内で「新規事業」を検討している人にとっては,自分の仕事にとって参考になる映画である(理由は「見た「後」にさらに映画を楽しむ知識」に書いた)。おそらく感想は,「こんなに昔から新規事業ってこうだったんだ。」というものだ。
    ただし,これら以外の人であっても,子供のときに伝記で読んだ発明王「エジソン」って「本当はこういう人だったんだ!」,「伝記には書いていなかったけど,こんなすごい話があったんだ!」と感心できる映画である。
    最後に,シャーロックホームズ役,アベンジャーズのドクター・ストレンジ役のベネディクト・カンバーバッチが主人公のエジソンの役であり,スパイダーマン役のトム・ホランドも登場するため,このような役者が好きな人も当然に楽しめるであろう。
    ということで,いろいろな人が楽しめる映画であるのは間違いないが,試写して分かったことは,おそらく「前提」知識があった方がもっともっと楽しめる人が多いであろう,という点だ。そこで,そのような前提知識をまず紹介する。ちなみに,見る「前」に知っておくべき知識には,いわゆる「ネタバレ」のようなものはないのでご安心を!


    1.見る「前」に知っておくべき知識
    (1)主要人物の顔と役柄

    実は全般的に電気がまだ一般的ではない1800年代後半(日本ではペリー来航のころで黒船と呼んでいた時代)をリアルに描いているためか,画面が暗めのことが多い。また着ている服もみんなダーク系で髭を生やしている人も多いため,外見だけで人物を見分けるのが意外にも難しい。うっかりすると誰が誰だかわからなくなるのだ。
    そこで,以下の主要人物となる以下の4人の顔と簡単なプロフィールだけはしっかりと頭に叩き込んでから見るべきだ。

    ①エジソン
    言わずと知れた主役である発明家であり事業家である(俳優名:ベネディクト・カンバーバッチ)。これはおそらく解説の必要がないだろう。
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    ②ウェスティングハウス
    主役級で登場する発明家であり事業家である。おそらくウェスティングハウスと聞けば,一般の多くの人が記憶しているのは東芝が2006年に買収した原子炉会社としてのウェスティングハウスであろう。まさにその源流となっている総合電機メーカーのウェスティングハウス・エレクトリック(現在は存在せず)の創設者である。
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    ③JPモルガン
    JPモルガンは投資家であり銀行家として登場する。JPモルガンといえば,現在,外資系金融機関の名称として聞いたことがあるであろう。まさにそのいわゆる「モルガン財閥」の創始者である。鼻が大きいという特徴があったため,その点を頭に入れておくと良いであろう。
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    ④二コラ・テスラ
    二コラ・テスラは,現在でも天才科学者として様々な人から崇拝されている。例えば,電気自動車で有名なテスラ・モーターズ社という社名は,創業者のイーロン・マスクが二コラ・テスラを尊敬してつけた社名であると言われている(したがって,ウェスティングハウスやJPモルガンのように現在も存在する企業の創始者ではない)。
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    「エジソンズ・ゲーム」登場人物
    https://edisons-game.jp/staff_cast/index.html


    (2)米国は各州がほぼそれぞれ一つの「国」である
    ネタバレにならないよう,なぜこれが知識として必要か,という背景は説明しない。
    米国というのは,もともと各州毎に「立法権原」があり,州はそれぞれが一つの「国」に近い権力がある。日本の「県」と米国の「州」をパラレルに考えるのは完全な間違いである。例えば,米国では州毎に死刑制度の有無が異なる。日本で県毎に死刑制度の有無が違う,などは考えられないであろう。
    この点は,映画を見る前にきちんと認識してから見た方が映画の展開を理解しやすいであろう。


    (3)直流と交流の違い
    映画の中でもある程度は説明が出てくるので,できる限り簡単にとどめる。
    まず,直流というのはその文字の通り,電気が一定方向に真っ直ぐに流れるもので,一番わかりやすいのは,小学校の理科の実験で乾電池をつないで豆電球を点灯させたことを思い出せればOKである。このように電池を使ったものはすべて直流であり,ノーベル賞を取ったリチウムイオン電池ももちろん直流であり,身の回りの電気製品は基本的にすべて直流で動いていると言って良い。
    ここで分かりにくいのは家庭にあるコンセントは直流ではなく「交流電源」である,という点であろう。実は,家庭用電気機器は,この交流電源(AC=Alternating Current)から得た電気を「直流(Direct Current)に変換」して用いている。なぜ,そんな面倒なことをしているのか不思議ではなかろうか。つまり,なぜ直流電源ではないのか,と言えば,それは発電所から遠くに電気を送る方法,すなわち「送電」する場合には,「交流」の方がメリット(*やや難しい話になるので詳細な説明は省略)が多いと考えられてきたからである。
    要は,発電所から家庭まで電気を送る「送電」の段階の交流・直流と家庭内で用いる電機製品の交流・直流は別の段階の話である,という点を認識できていれば問題ないだろう。


    2.見た「後」にさらに映画を楽しむ知識
    ここから先はある程度ではあるものの,ややネタバレ要素を含むので,映画を見た後に見て頂ければ幸いである。

    (1)ベンチャービジネスと特許の関係
    一言で言えば,「ベンチャービジネスを支えるのは今も昔も特許だった。」ということである。本作の中で,ビジネスの要として特許の話が幾度となく登場する。
    従来,住宅ローンの際には,土地や建物が担保となるように,不動産のような目に見える物体は明確な「財産」とされており,大企業が銀行から融資を受ける際には自社ビルが担保となるような場合も多い。
    しかし,ベンチャー企業の場合にはそのような自社ビルを持っていることはほとんどなく,持っている財産は彼らのビジネスに関する「アイデア」のみであることが多い(そのため「知的財産」と言われる)。このような「アイデア」のうち技術的なアイデアは特許の対象となる。欧米の企業がM&Aをすることが多いことは有名であるが,その実態は,実は企業そのものというよりも,その企業の特許を取得する目的が多いと言われる。少し前では,グーグルがモトローラを買収した際には特許だけ手元に残してモトローラ自体はすぐに他に売却した,という実例が典型的である。
    かつてはベンチャー企業の出口は,IPO(株式公開)と言われていたが,最近では,グーグルなどに買収されることを出口と考えている起業家も増えている。その場合,先に見たように,どれだけ有用な特許(知財)を持っているかが重要となる。  この点,映画の中で当初はテスラには特許の知識がなかったということであろう。アーク灯に関するシーンでは,テスラに対して,相手から特許はこっちが持っていると言われて反論できないシーンが出てくる。
    他方,後半ではテスラが学んだのであろうか,ウェスティングハウスがテスラの特許を利用したいと申し入れ,それについてかなり高額な対価を得る契約をする場面が出てくる。ベンチャービジネスでは特許こそが鍵となっている。まさに現代と何も変わっていないといえよう。


    (2)特許戦略の種類
    特許戦略には,昔から「守り」と「攻め」があると言われている。守りというのは,相手方が持っている特許から自社をどう守るか,というタイプの戦略であり,「攻め」というのは自社が持っている特許を利用して,ビジネスを有利に進めようとするタイプの戦略である。
    守りの例として「設計変更」という方法は現在もよく用いられている。簡単に言えば,相手の特許に抵触しないように,文字通り製品の設計を変更するということだ。例えば,相手の特許が「AとBからなる時計」だったとしたら,Bの採用をやめて,「AとCからなる時計」にすれば,相手の特許には抵触しないことになる。
    本作では,電球のソケットの部分が,「スクリュー式」の電球の特許をエジソンが持っていたのに対し,ウェスティングハウスがソケットの部分をかちっと差し込む「嵌め込み式」の電球に変えた,というシーンが出てくる。これはまさに特許の抵触を回避する「守り」の手法である。
    他方,「攻め」にもいろいろとあるが,一つは裁判所に対して訴訟を起こして,相手方の事業を差し止めする,というものがある。特許は独占権とも言われるため,いわば典型的な「攻め」の手法といえる。
    本作でも,エジソンが訴訟について言及しているシーンが登場するが,攻めの手法である。


    (3)最後に個人的な視点
    筆者は,大学を卒業して最初に就職した会社が東芝であった。東芝は,東京電機と芝浦製作所が1939年に合併して,「東京芝浦電気」,略して「東芝」となったのであるが,そのもともとの東京電機は実は,エジソンの会社であるゼネラル・エレクトリック(GE)の子会社(GEの持株比率が51%)だった時期(1905年当時)があることを最近になって知った。つまり,ある意味で言えば,東芝はGEの子会社に源流がある,ということだ。
    エジソンに源流のある東芝が,ウェスティングハウスを買収したのは,シカゴ万博以来の「積年の恨み」を晴らした「エジソンの仕返し」と捉えることができるのでは?と考えたが,もちろん個人的な妄想である。

    杉光 一成
    (一財)知的財産研究教育財団・専務理事,金沢工業大学大学院・教授,博士(工学) ,2009年4月「知財功労賞」(特許庁長官表彰)受賞。

映画 『エジソンズ・ゲーム』 TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー(予定)

監督:アルフォンソ・ゴメス=レホン『ぼくとアールと彼女のさよなら』「glee/グリー」シリーズ
出演:ベネディクト・カンバーバッチ、マイケル・シャノン、トム・ホランド、ニコラス・ホルト
配給:KADOKAWA 
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◆知的財産管理技能検定×映画「エジソンズ・ゲーム」 
http://www.kentei-info-ip-edu.org/kentei_edisons-game/ 


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